泥のように眠る

アイドルのはなし 引用はご自由に

Beautiful Liar 春の感想文


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前々からこのMVの良さを言葉にしなければと思っていたのですが、ようやく書けそうな気がするのでブログにしています。

2015年のレオとラビのユニット曲です。VIXXのLEOとRAVIでVIXX LRです。このmvを見ると素晴らしいものは時間を超えても素晴らしいんだナ…としみじみ思いますね。

恋人に別れを切り出された男が、悩み葛藤しながらも彼女を送り出す。作り自体はすごくシンプルなストーリーになってるんですが、映像美がはちゃめちゃにメチャメチャいいんです…。ということをこの記事で書いていきます。オタクの感想文なのでわかる〜!と思ってもらえれば一番嬉しいです。

 

 

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入りが風の音とBeautiful LiaRという文字。髪の毛が揺れて、悲しそうな目をちらちらと隠している。後ろで聞こえる金属音は鍵が鳴る音? 浜辺でピアノを弾くカット(エモOFエモ)はレオの精神世界だと思ってるんですが、このシーンは全てが終わった後なのかなあと。渡された鍵を手遊びしながら、過ぎ去った日々をぼんやりと考えているような。自分の元を去ったラビを思い出しているような。

書いてる途中で気付いたんですが、画面の比率も恋人とのシーンとラビが出てくるシーンでは違うんですよね。

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 「僕の最後の嘘」という言葉と共に、先ほどの黒髪の人とめちゃめちゃな色を着たスーツの男が遠めに映し出されるの、制作陣ワカリが過ぎるんだよな。ここでも波しぶきが映ってるの、10回目くらいの視聴で気づきました。エッモ……好きです。

00:19から、おそらく恋人からウエディングカードを渡されてベッドで項垂れる黒髪の人。この人がレオです。恋人を失う張本人です。「自分にもう一度尋ねてみる」というラップとともに目を閉じるレオ。

「自分」「僕」というフレーズは、このMVのキーワードになります。

00:27~、低音のラップが紡ぎ始められるのと同時に映される、レオが座っていた場所に座る銀髪の人。ラビです。レオの、身に持て余すほどの激情を表しています。ベッドを囲む蛍光灯は、自分と恋人の安らぎの場だったその場を守りたい気持ちだろうか。レオの精神世界(浜辺)でラビが着ている金持ちの道楽か?って感じのスーツ、世界中の誰一人として似合わなそうなのにラビには似合うのズルいですよね。ズタボロのベッドといい全身に描かれた模様といい、レオのぐちゃぐちゃでどうしようもない感情を表している。

00:41あたりからの激しくなるラップ、座ったまま微動だにしない人間の中でそんな感情が渦巻いているのかと思うと胸にグッときますね。「幸せになってくれ」という言葉と共にレオとラビが同じタイミングで顔を上げる。たぶんここまではレオは自分の激情(ラビ)をなんとか抑えられてるんですね。

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00:56~、ここからのレオの歌声がホント~~~~に好きで…ラビの低い声がかぶさっているのがなんとも言えない。切ない気持ちにもなるし単純に歌声が好きだとも思う。このシーンの端っこにはラビのピアノが出てきます。

浜辺のピアノがレオの行き場のない感情の整理をつけるためにあるのだとしたら、ラビはそんなものくそくらえと壊れた自分のピアノの上にどっかり座っている。ただ、ラビのピアノは何から何までめちゃくちゃなのに対してレオのピアノは鍵盤だけがラビのスーツと同じ色で塗られてるんですね。これが何を意味するかはこの後に出てきます。

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歌が進むにつれて、だんだんラビがもがき始めます。もういい加減、この腹の底で煮えたぎっている怒りを解き放ちたいのだ。

そんな中、「もう手を離すけど、僕の気持ちも同じだよ」と歌いながらラビを見つめるレオ。そのすぐあとに「ここで終わろう」と(どんな気持ちであれ、ここではそう)歌うラビ。これ、レオのパートの「もう手を離すけど、僕の気持ちも同じだよ」というところ、すこし引っ掛かりを覚えたんですよね。だって、僕の気持ちも、と対になるような他人の気持ちはここに出てきてない。じゃあレオは何に対して僕の気持ちも同じだ、と言ったのか?

歌詞を少しさかのぼると、「握った手を離すけど、僕の気持ちは同じだよ(同じまま君を好きだよ)。だけど送り出してあげる。もう手を離すけど、僕の気持ちも同じだよ。」とある。前半の歌詞はこのままで意味が通じますよね。過去と同じように君のことが好きだとレオは言ってる。だけど後半の僕の気持ちも同じだよとは。普通は相手の気持ちと自分の気持ちが同じだった場合に使う言葉ですよね。相手が何かを表明したとき、僕も同じだよ、というように。

でもこの歌詞は恋人に向けてというより、ラビに向けて言った言葉なのではないか。恋人は口を閉ざしたままだし、何よりレオの精神世界にはラビしかいない。それから、元の歌詞ではマウムって言ってるんですよね。直訳したら心、僕の心も同じだよ、と。

そうなると、ラビをレオの単なる「激情」と形容するのは間違っている気がしてくる。ラビはレオの中の心、言い換えればもう一人の自分なのだ。恋人への怒り、自責の念。後悔。あまりに素直に感情を表しているからそう見えるだけであって! つまり、このシーンはレオは自分の心であるラビに同意を求めて、ラビはそれに苦しみもがきながらも応えていることになります。

二人は同じ人間であるという事実、よく見たらこれまでに何重にも伏線は張られているんですよね。お互いの歌詞の交差や、同じベッドに座っていること、レオの鍵盤の色や、そもそも同じ浜辺にいられること。初見ではこれに気付かなかったので、二回目以降はおそれおののきながら見入ってました。

1:08からサイコ~なサビです。鏡に映し出されるレオとラビ。無表情のレオとは対照的な、ラビの静かに怒りを抑えてるような表情。「君が去っても大丈夫」という歌詞にラビのもの言いたげな表情を映すのやめて(好きです)。1:33あたりの正面から吹いてくる強風に髪をなぶられながら、それでも真っ直ぐに前を見据えるレオの眼差しがとても好きです。彼はまごうことなきbeautiful liarなんですね…。

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と、ここでラビが息を吹き返します。現実世界ではベッドのレオがこうべを垂れ、あの鍵のシーンに切り替わる。後ろ姿だから少しわかりにくいけど、レオに残された、最後の分岐点なんですね。

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精神世界のラビが嬉々としてレオに近づきます。ラップの歌詞は淡々としているけど、映像の中では自分の顔を近づけてもう素直になれよと囁いてるみたい。現実世界の揺れ動くライトと不安定な壁画が、レオの感情を表しています。それでも、1:49の、ピアノの対面に回ったラビの顔を見つめるレオの眼差しよ。決意と覚悟に満ちている…。

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1:53からはラビがもうすごいです。すごい。一旦諦めたかのように身体を伏せるのに、次のシーンで怒り狂う表情を入れてくるのはなんなの…なんなの…。思い描いてた未来はこうじゃないと、再び精神世界のレオに迫るラビ。驚いたようにのけぞるレオ。一方で、別れを切りだされたシーンでズタボロのベッドに座っていたように、鍵のシーンでもラビはレオと恋人がいた部屋にいます。思うようにはうまく行かない現実、自分の手をすり抜ける恋人。

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爪をかじるレオは、自分(ラビ)が恋人を捕まえるシーンを思い描いてるんですね。ラビは当然それを知っている。浜辺で迫ってくるラビに対して、生気なく彼を見つめるレオ。ラップの歌詞は彼女の幸せをひたすらに願っているのに、映像ではそれとは裏腹な感情があからさまに映されていて非常に胸に来ます。ラビの吐き捨てるような口調とうんざりしたような表情…全然歌詞のこと心にも思ってないじゃん…。空想の中でラビが恋人を捕まえるのに失敗した瞬間、夢から覚めたレオがパッと顔を上げます。

2:08からレオ。絶対に縋りつかない、僕は笑うよと歌いあげながら、おそらく同じく未練を感じているであろう恋人の手を避けます。これが(そうこれが)ぼくだ(ぼくなんだ)の掛け合いが最高すぎる。ラビが「ぼくなんだ」という時の表情、怒りに震えてるようにも最後の判断を迫っているようにも見えますよね。それを見つめ返すレオの瞳の静謐さ! それでも、「ためらうな」と恋人に言いながら、一度は手を掴んでしまう。だけど次のカットでレオは心の奥底まで暴かれるんですよね。後半にも出てくる眩しい光によって、やっぱり手を放さなければ、と決断する。この眩しい光については後半に書いています。

2:26~ではレオはピアノを弾かずに強風になぶられるまま、ラビは呆然とした顔で突っ立っているカットが何度か入る。最愛の人を失った悲しみに暮れてるのだ。「君が去っても大丈夫、幸せでいてくれるならいいんだ」とラビを健気に見つめながら歌うレオ。レオをにらむラビ。このMVはとにかく眼差しを交じ合わせるカットがよく入るんですけど、カットごとに伝わってくる感情がまるで違うのでもっとやってくれ…って気持ちです。

2:47からラビを見つめながら、I'm a beautiful liarと歌いながら、差し出される鍵を受け取ろうとするレオ。傷つく準備ができている…。

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2:50 見ました? これは映画史(映画史ではない)に残るシーンなんですけど、初見の衝撃をいまだに覚えてます。真っ白な手が鍵を取ろうとした瞬間に飛び出てくる入れ墨だらけの腕。叩き落とされる鍵に、始めて観た時はちょっと声が出ました。すごい終わり方だな~と。三分くらい観たし、ここで終わるんだと思ったんですね。でもまだ終わってないんです…終わってないんですよ…..。

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2:55から夢と現実が交じり始めます。落とされた鍵を見つめるのはレオだけじゃない。恋人も同様に床を見つめています。ラビのこれからが始まりだとでも言わんばかりの肩の動きがぞくっとしますね…。恋人を睨んで、レオを睨むラビ。レオの反応が一瞬遅れるのが、自分の感情を制御できていない感じが出ていてイイ…となります。

恋人はたぶん最初からレオの本心、ラビのことを認識してたのだろうな。ラビが見つめる前に恋人はラビのことを見つめてた。それでも別れるという決断が揺らぐことはなかったのだから、これ以上はどう頑張ったって無駄なんですよね。それはラビも知ってる。

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夢と現実の狭間なので恋人は突如現れたラビに驚かないし、鍵は渡したからそのまま席を立つ。レオを見つめたまま一つ深呼吸するラビがちょっと恐ろしい。ここで再び浜辺に戻るレオとラビ。「君への最後の、僕の気持ちをあげる時間」が、どういう気持ちをあげるつもりなのかはお察し…。夢と現実の狭間ではレオは必死にラビを抑えるけど、精神世界ではレオはラビに誘われてるんですよね……愛し合っていたこと、それ自体が美しかったと歌いながら、美しい思い出をそのままにできるじゃないかと囁かれているレオ。最初はラビが歌っていたこの歌詞ですが、二度目からはレオの歌声もかぶさります。

3:25でレオが歌う「足枷のように僕を捕らえる」「僕よりももっと僕のような僕」………。グウ…(完敗)そこで叫ぶように歌われるの、もう胸がいっぱいになってしまう。あと歌がうめえ。ラビが後ろで「戻って来い、僕に微笑んでくれ」と言ってるの、ここで初めて歌詞の中で出た本心ですね。ラビの表情が抜け落ちた顔、この人なんで猟奇殺人の役もらってないんだろう。いまわの際でうそつきではいられなくなってしまったレオ。それでもラビを必死で引き留めようとするのが切ない。ラビを足枷のようだと言っておいて、自分がその足元に縋っているのも切ない…。引きずられてるレオがめちゃめちゃにえっちなのはそれはそれなんですけど…。

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3:38から全人類が待ちわびたシーンですね。顔を覆って俯くレオの後ろから、ラビが現れます。僕よりももっと僕のような僕が。上半身は裸で、もう偽ることはやめてしまったんだ。彼女への本当の気持ちを言葉に、歌詞にしてしまった以上、今のラビはいわばむき出しの心です。二人ともが何かを掴もうと手を伸ばして、レオがラビを捕らえるフリをすると、ラビはそれに引き留められる動きをする。この踊り誰が考えた? 後ろには波しぶきで、二人が踊るのは夜の浜辺です。エモいにもほどがある。

夢と現実の狭間、真っ暗闇の中でもレオはラビを必死で止めます。だけど恋人が振り返った後のレオは、ラビを引き留めるというよりも抱きしめてるみたいに見える。ラビはレオの腕を振りほどこうとしながらも、この先をたぶんわかってしまっている。このシーンで流れ始める歌詞。

「君を見送るよ」「僕の中の僕を殺して」

殺して、の部分で浜辺のラビがレオを抱きしめる。抱き着いたのはラビだけど、縋りつくように手を回すレオにヒエ~となりました。ヒエ…。

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未来が分かってるのになお懸命に愛そうとするラビが本当にもう一人の自分という感じだし、縋りついてしまうレオの弱さにそういうところだぞ人間…って気持ちになります。本当は二人ともお互いのことを大事に思っていたし、大事にしたかった。でもこれが最後のお別れです。

3:51の二人の顔をくまなく照らすライト、前半(2:19~鍵を渡されるシーン)にも一度出てたんですけど、前半ではピアノの前に座るレオのみが浜辺でライトに照らされてましたよね。実はこのシーンの直前、レオとラビの二人が「絶対に縋りつかない、これが僕だ」とお互いを見据えて歌っています。

それでも、現実世界のレオは「絶対に縋りつかない」と言いながら彼女の手を掴みかける。どうあがいても未練があるからです。

この時のレオを照らすライトは、後戻りのできない、最後の最後にレオを試すもの、レオを今一度問いただすものです。結果として、現実世界ではレオは「行け」と歌いながら彼女の手を離します。二人で下した決断が揺らぐことはなかった。激情に身をゆだねなかった。

今のシーンに戻ると、二人は上半身に何もまとわないままで、カメラを正面から捉えてる。歌詞では「涙をのみこんで笑顔の仮面をかぶるよ」と言う。このライトがレオとラビの決断を今一度問いただすものだとすると、レオは恐れるものがないように目にかかる髪を払い、反対にラビは仮面をかぶるかのように手で顔を覆い睨みつけています。

ラビはレオのもう一人の自分だけど、激情をもとに生まれてもいます。そのラビが「笑顔の仮面をかぶる」とはどういうことか。レオを殺せないのは、レオに殺されるのはラビです。そうだとしても、ラビの決断もまたレオと同様に揺らぎません。

彼女が見えなくなったシーンの後、「僕は今すっきりした気分だ、心配しないで」と言いながら慟哭するレオ。liarと後ろで嘆く声からも全然振り切れてはないんですよね…。

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3:59のレオの首を絞めるラビ。カメラを見つめてくるうつろなその目にドキッとします。もう覚悟を決めて、運命を受け入れてしまったんだろうか。ラビの手には力が入ってないのか、解こうとするレオの手は弱弱しい。一方で夢と現実の狭間ではレオは本気でラビを殺そうとしています。彼女が消えてしまうまでは真っ暗闇だった夢と現実の狭間は彼女が消えてから、おどろおどろしくて色の混在した壁画が後ろに現れます。もう何もかもめちゃくちゃで元に戻すことは不可能なんですよね。同じように、力をこめてしまった手を放すことは今となってはできない。

4:04でほんの一瞬だけ、精神世界のラビがレオの首を本気で絞めます。だけど、同じくらいに夢と現実の狭間ではレオがラビを殺そうとしてる。浜辺のラビが手を放す方が先だったのか、レオがラビを殺すのが先だったのかはわかりません。レオ自身もきっとわからないし、この先も知ることはない。だけどたぶん、レオが殺してしまうよりも前に、ラビはその未来を受け入れてしまっていた。ラビが自己を犠牲にしたことをレオが知ることはありません。

だらん…と、力なくラビがのけぞるシーンが怖い。去っていくラビを目で追うレオ。最後に振り返って、それから暗闇に消えてしまうラビ。

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徐々にこちらを振り返るレオの、何もかもをいっぺんに失ってしまったような顔を最後にこのMVは終わります。

 

 

 

書いててスゲーー!と思いました。確かに衝撃を受けたけど、このMVについて書きたいと思ったけど、予想してたよりもはるかに作りこまれたMVだった。何十回も見てるのにいざ文字にすると気づくことが100個くらいあった。4分31秒の間、一切の無駄がない…。なんだこの事務所…。もともとコンセプトドルという異名をとるだけあって、アイドルを偶像として魅せるのがはちゃめちゃにうまい事務所だという認識はあったんですけど(それに適応し続けるびくすたちも怖い)、ここまでだとは思わなかったよ。訳もなく人類の進歩に感謝してしまう。

付け足しですが、メイクも本当にエモいんですよね。

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レオは今まさに涙をこぼしているようなアイメイクで、ラビは長い間泣いた真っ赤な目元のようなアイメイクで。最高だ。

最高のMVです。本当にすごい。びくすの二人がこれをやってくれてよかったです。