泥のように眠る

アイドルのはなし 引用はご自由に

ONF: MY NAME 美しい僕たちについて

ONF(オネノプ)が2月24日にBEAUTIFUL BEAUTIFULでカムバックしました。

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2017年にデビューしたグループで、今回はSukhumvit Swimming(スクンビットスイミング)以来6ヵ月ぶりのカムバックです。今回発売された正規アルバム、ONF:MY NAMEには(CD限定の一曲を含めて)11曲収録されていて、上に貼ったBEAUTIFUL BEAUTIFULがタイトル曲です。

 

追記:オネノプ1位おめでとう!

 

という前提情報を共有してから、オネノプのBEAUTIFUL BEAUTIFUL(以下ビュビュ)が本当にとてもよかったよという話をしたいと思います。 

ビュビュのよかったところを全部挙げたら日が昇ってまた沈むくらいの時間がかかりますが、本当にザックリ言うとビュビュは「曲としてメチャクチャにいい」「歌詞がメチャクチャにいい」です。この記事はBEAUTIFUL BEATIFULの歌詞がよかった話をします。

 

ボーイズグループがI'm Beautifulと歌い上げ、生き様そのものを美しさとして認識し、祝福する。オネノプくんがビュビュでカムバックしたことは、オネノプくんにとってもkpopのボーイズグループにとっても大きな意味を持っていたと思います。

ONFを作るモノツリについて』では楽曲制作事務所であるモノツリの特徴と、オネノプくんとの関係を軽く紹介しています。

I’m Beautiful 僕の人生の全ての叫びは 芸術そのものだ』ではI love myselfとは歌わないビュビュを、鑑賞者をキーワードに書いています。

毎日が熾烈なstrongerではなくstranger』ではstrongerという歌詞に着目し、ジェンダーの枠組みからビュビュを見ようとしています。

生きている僕たちは 夢を見る僕たちは 美しい僕たちは ここにいる』ではI'm Beautifulと自らを呼んだことに続いて、ビュビュで見られる丁寧な主語の使い方やコレオについて触れています。

ONFが歌った意義』ではビュビュという曲をデビュー5年目のオネノプくんが歌った意義について書いています。

 

初めに和訳を載せているので、もう知ってる人は目次のところから自分の興味のある項目にタップして飛んでください。

 

目次

 

 

BEAUTIFUL BEATIFUL和訳 

Brrram 빠밤 빠밤 빰빰 빰빠밤빠밤 빰
Brrram 빠밤 빠밤 빰빰 빰빠밤빠밤 빰
Brrram 빠밤 빠밤 빰빰 빰빠밤빠밤 빰
Brrram 빠밤 빠밤 빰빰

 

숨소리 0.1초에도 담긴 내 진심 깊은 진심
呼吸0.1秒にもつまっている僕の本心 深い本心

 

너와 난 이 순간도 팽창하고 있는 큰 우주 깊은 우주
君と僕はこの瞬間にも膨張している大きな宇宙 深い宇宙

 

사람들이 짜 놓은 frame에 애써 나를 끼워 넣지 않아
人々が作ったframeに無理やり自分を合わせたりしない

 

미움받을 용기를 세팅할 게 상처는 더욱 날 성장시켜
嫌われる勇気をセッティング 傷は僕を更に成長させる

 

오늘도 수고한 나에게 축복을
今日も頑張った僕に祝福を

 

I’m Beautiful 노래해 yeah yeah yeah
I’m Beautiful 歌う yeah yeah yeah

 

내 삶의 모든 외침이 곧 예술 예술 예술
僕の人生の全ての叫びは 芸術そのものだ

 

I’m Wonderful 느껴 la la la la
I’m Wonderful 感じる la la la la

 

보란 듯이 우린 활짝 피어나
見せつけるように僕たちはパッと咲いて

 

불러 노래
歌え

 

Brrram 빠밤 빠밤 빰빰 빰빠밤빠밤 빰
Brrram 빠밤 빠밤 빰빰 빰빠밤빠밤 빰 Beautiful
Brrram 빠밤 빠밤 빰빰 빰빠밤빠밤 빰
Brrram 빠밤 빠밤 빰빰 빰빠밤빠밤 빰

 

set me free 다 던져 다 벗어 던져
set me free 全部投げろ 脱ぎ捨てろ

 

let me be 난 이대로 있는 그대로
let me be 僕はこのまま ありのままで

 

I awake 누가 날 컨트롤 할 수 없어
I awake 誰も僕をコントロールできない

 

난 master 나의 master
僕はmaster 僕のmaster

 

내가 되고 싶은 건 number one 아닌 only one
僕がなりたいのはnumber oneではなくonly one

 

매일 매일이 치열한 stronger 아닌 stranger
毎日が熾烈なstrongerではなくstranger

 

yeah 난 누구보다 빛나
yeah 僕は誰より輝いてる

 

uh 이런 날 보며 신나서
uh こんな自分を見ると楽しくて

 

That’s me this me

 

들어 봐 이런 날 위한 축배를
あげてよ こんな僕のために祝杯を

 

I’m Beautiful 노래해 yeah yeah yeah
I’m Beautiful 歌うyeah yeah yeah

 

내 삶의 모든 외침이 곧 예술 예술 예술
僕の人生の全ての叫びは 芸術そのものだ

 

I’m Wonderful 느껴 la la la la
I’m Wonderful 感じる la la la la

 

보란 듯이 우린 활짝 피어나
見せつけるように僕たちはパッと咲いて

 

불러 노래
歌え

 

모두의 마음엔 은하수가 있어서 oh oh
すべての心には天の川があるから oh oh

 

어둠을 이겨낼 땐 눈물이 흘러 oh
暗闇を乗り越える時は涙が流れる oh

 

찬란한 별이 되어
光り輝く星になって

 

Beautiful 노래해 yeah yeah yeah
Beautiful 歌う yeah yeah yeah

 

우리 함께 하는 모든 것이 예술 예술 예술
僕たちが一緒にいる全てが芸術だ

 

I’m Wonderful 느껴 la la la la
I’m Wonderful 感じる la la la la

 

보란 듯이 우린 더 크게 외쳐
見せつけるように僕たちはもっと大きく叫んで

 

불러 노래
歌え

 

Brrram 빠밤 빠밤 빰빰 빰빠밤빠밤 빰
Brrram 빠밤 빠밤 빰빰 빰빠밤빠밤 빰 Beautiful

 

살아 있다 우린 꿈을 꾼다 우린
生きている僕たちは 夢を見る僕たちは

 

아름다운 우리 여기에 있다
美しい僕たちは ここにいる

 

Brrram 빠밤 빠밤 빰빰 빰빠밤빠밤 빰
Brrram 빠밤 빠밤 빰빰 Beautiful

ONFの音楽を作るモノツリについて

ビュビュの素晴らしさを探求する前に、ビュビュを作った人たちであるMONOTREE(以下モノツリ)を少しだけ紹介したいと思います。

モノツリはファンヒョンさんを代表に、G-HighさんやGDLOさん、NOPARIさんが所属している楽曲制作事務所です。これまでにLOONAやRED VELVET、SEVENTEENに楽曲を提供してきました。最近だとYUKIKAの曲も作っています。

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オネノプくんはこのモノツリという事務所に、彼らのアルバム収録曲全てを提供されています。また、デビュー曲ON/OFFから今回のタイトル曲BEAUTIFUL BEAUTIFULまでのタイトル曲の作詞・作曲・編曲をモノツリ代表のファンヒョンさんが手掛けています。

New World

New World

  • provided courtesy of iTunes

눈을 마주하고 우린 춤을 추며 세상의 없던 노래를 불러

(目を合わせて僕らは踊り 世界に無かった歌を歌う)

ONF - 新世界 

Why

Why

  • provided courtesy of iTunes

또 사라져버리면 다음엔 언제 다시 만날지 모르니까

(また消えてしまえば次はいつ会えるかわからないから)

더 세게 안을 게 그리고 좀 울게

(もっと強く抱きしめるよ それから少しだけ泣かせて)

ONF - Why 

Original

Original

  • provided courtesy of iTunes

괜찮은 척 하지만 귀찮은 척 하지만 아니잖아 아프잖아

(大丈夫なフリしてるけど面倒なフリしてるけど 違うじゃん辛いじゃん)

ONF - Original

オネノプくんの歌詞はストレートな表現よりも詩的な表現が多く、上の歌詞がその一例になります。様々な愛、恋、過去、未練の歌をオネノプくんは歌ってきましたが、BEAUTIFUL BEAUTIFULはその極地だったんじゃないかと思います。

youtu.be

ビュビュ制作の裏話が語られたモノツリ動画の冒頭部分でビュビュの歌詞について触れられていたので、その部分を訳します。

ファンヒョン

「この曲を作りながら一番神経を使ったのは、僕たちが映画とか小説とか、そういう話を聞く時、思いつきもしなかったことが出てくると大きな喜びを感じるんじゃないか。もう一つ刺激になる点じゃないか」

G-high

「"ひねり"になるような、サプライズみたいな」

ファンヒョン

「だからオネノプのファンたちが『次の新曲はどんなのだろう』と考えて(実際に)見た時『いやこういうの!?』って、そういう風にできたら面白そうだろうと思いました」

(中略)

ファンヒョン

「(今までオネノプのタイトル曲にはヴォコーダーやバイオリン、サックスの音を使ってきて今回は何にしようか色々悩んで(意訳))パッと思いついたのがありました。声だと。だからアカペラパートも作って、みんなで大きく歌う冒頭にしました」

G-high

「さっきサプライズの話をしましたけど、僕は歌詞の部分もちょっとそうでした(驚きました)。以前もコンセプトは確かに存在しましたが、以前のオネノプの話は『君と僕の物語』。つまり相手が存在する感じだったんですよ。でも今回の曲はもっと自分の中に入る感じで」

ファンヒョン

「そういうディテールの話をするのはちょっと難しいんですが(中略)とにかく明るいメッセージを込めたかったんです。それから最近時代が…みんなしんどいじゃないですか。だけど僕たちが生きている人生自体が、僕たちが表現すること自体が、すなわち芸術になるんじゃないか

G-high

「そしてそれが美しいと」

ファンヒョン

「だから自分が美しいんだと話し続けることが、すなわち君も美しい。僕たちは美しい存在だ。人文学的な感じを」 

ファンヒョンさんが動画内で語ったように、BEAUTIFUL BEAUTIFULでは3分11秒の間絶えることなく「美しさの肯定」が主張されています。「自分が美しい」そして「僕たちが、人生が美しい」と。

また、ファンヒョンさんは練習生のオネノプくんと約一年間共に過ごしてから、オネノプくんのデビュー曲を書いています。それから5年間、ファンヒョンさんはオネノプくんと共に在り続けました。(デビューの一年前から見ていたというのはこちらのURL先でファンヒョンさんが触れています。 https://www.youtube.com/watch?v=0M_V3GV37OQ&t=97s)

ONFというグループの音楽を一から作り上げてきたファンヒョンさんとモノツリ。ONFについての詳細は最後の項目に書いていますが、デビューから決して平たんではない道のりを歩んできたオネノプくんが歌ったからこそ、ビュビュはさらに美しい曲になったと思います。

 

モノツリについての紹介はここまでにして、次の項目からはビュビュの歌詞について書いていきます。

 

I’m Beautiful 僕の人生の全ての叫びは 芸術そのものだ

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ビュビュのサビで歌い上げられるI'm Beautifulという歌詞。I love myselfと歌ったボーイズグループはいくつか浮かびますが、タイトル曲でI'm Beautifulと歌ったボーイズグループは、少なくとも直近二年ではいなかったと思います。(もし読んでる方で思い当たる曲があれば教えてください。)

では、"I love myself"と"I'm Beautiful"の違いとは何なのでしょうか。どちらも自身を肯定する言葉ではあります。大きく違う点は、美しさには鑑賞者が要ることです。

愛することに鑑賞という行為はありません。しかし、美しさにはその対象を評価する人(鑑賞者)が必要です。天の川や絵画を見るとき、私たちは鑑賞者となり、空を間において(もしくは白線を間において)それらを見つめ、美しいという評価を下します。

そしてその隙間(空、白線)こそが、美しさを評価される対象と自分に緩やかなつながりを生むのだと思います。一歩引いて対象を見つめる程よい距離感。愛は特定の強い結びつき(「私」が「私」を愛する,「あなた」が「私」を愛するなど)を言います。執着は当然強く、お互いは密接な関係にあります。

以下は芸術について書いたナムウィキ(韓国でのウィキペディア)のページを抜粋しています*1

현대인들이 흔히 하는 착각 중 하나가 '예술은 예술가 개인이 하는 것' 이라고만 생각하는 오해인데, 이는 공연자와 관람자로 이원화된 서구 예술만을 생각하기 때문에 범하는 오류이다. 예술가와 관람자(문학의 경우 독자, 음악인 경우 청자)간의 상호작용 또한 예술의 일부분으로써 인정받는다. 물론 '예술은 예술가 개인이 한다는 것' 도 옳은 말이다. 중요한 것은 수단이 아닌 예술 그 자체일 것이다.

google訳: 現代人がよくする勘違いの一つが「芸術は芸術家個人がすること」とだけ考えている誤解だが、これは共演者と見物人に二元化された西欧の芸術だけを考えるので犯すエラーである。アーティストと観客(文学の場合読者は、音楽家場合聞き手)との間の相互作用はまた、芸術の一部として認められる。もちろん「芸術は芸術家個人があるということ」も正しい言葉だ。重要なことは、手段ではなく、芸術そのものである。

(나무위키 예술 https://namu.wiki/w/%EC%98%88%EC%88%A0)

アーティストと観客の相互作用も芸術の一部である。

ここのアーティスト(評価される人)とは、例えばアイドルや芸術家に限りません。私たちも同様に他者から評価される人であり、同時に他者を評価する鑑賞者でもあります。社会という共同体の中で生活し自分自身を表現している以上、私たちは絶えることなくお互いへの評価を行っているからです。ビュビュはその中においても、「自分は美しく、自分自身を表現するという行為(人生の全ての叫び)は芸術なのだ」という肯定のメッセージを送っています。

 

また、ビュビュの歌詞で特徴的なのは「嫌われる勇気を持つよ、社会のフレームには入らない」という、強さや逞しさを持った言葉と「I'm Beautiful」という言葉が両立しているところです。ビュビュでは「強さを持ってしまった」嘆きや孤独が一曲を通して繰り返されるのではなく、そうした強さとそれらへの温かい眼差し(今日も頑張った自分に祝福を、I'm Beautiful、光り輝く星になって…)が共存しています。それどころか、芸術であるとすら歌う。

日々を生きていく中で、なんだか他の人のように上手に生きられないなと落ち込んだり、ちょっとした生きづらさを持ったりするのは誰しもが経験することだと思います。そうして、心が泥だらけになったような気持ちになったり自分だけ取り残されたような不安を持ったり。

ビュビュでのI'm Beautifulは見てくれのことを言っていません。自分の、自分たちの生き様について美しいと表現します。

これまでの「私は美しい」と歌った歌は、「私は美しい」という強烈な自己認識でもって、(社会から強要される)価値観や偏見という泥沼から這い上がっていました。言い換えれば、「私は美しい」という肯定が閉じ込められている自分を脱出させる土台になっていた。加えて、そうした曲もガールズグループのタイトル曲に見られる特徴であり、ボーイズグループのタイトル曲で自己肯定は優先されてきませんでした。

ビュビュは泥沼から這い上がる時から、自分の作った土台に足を乗せる時、それから他者と祝杯をあげるとき全部をひっくるめて「美しい」と表現しています。社会に対しての抵抗から自己への肯定、他者との共存までが全部「美しい」で包まれています。

これまでのボーイズグループのタイトル曲では、外へ向けた強さや激しさが主張されてきたように思います。「君を求める/君にすがる/君を愛する」というような。それらはマチズモに依拠して作られてきた歌詞であり、次の章の"stronger sex"に絡むテーマになります。


毎日が熾烈なstrongerではなくstranger

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英辞郎 on the WEBより

最初聴いたときは特に意識していなかったパートでしたが、歌詞を理解する中でstronger(より強い)のあとにstranger(よそ者)?と疑問に思い検索したところ、この解説「男性。性的特徴を用いた比喩表現で、直訳すると『より強い人』」を見つけました。(ちなみにstronger sexの対義語はweaker sexで、"より弱い人"である女性を指す蔑称になります。)

この項目では、『毎日が熾烈なstrongerではなくstranger』のstrongerはstronger sexについて言っていたのではないか?という仮説を基に、ジェンダーの側面からビュビュを考えます。

とはいえ、stronger sexの解説にある「性的特徴を用いた比喩表現」の性的特徴とは何を指すのか? 単に筋力量や背丈などの身体的特徴を指したものなのか。

私自身馴染みのない言葉だったので、google scholar(論文検索サイト)とtwitterのパブサを使用して、"stronger sex"という言葉が人々の間でどのように使われているかを拾ってみました。

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google scholarでの検索結果

まずgoogle scholarではstronger sexが「生物学的(身体的特徴)」強さだけでなく、ジェンダー問題の一つであるマチズモ(男らしさ)を含んだ使い方がされていることがうかがえます。(上の画像は"stronger sex"で検索した際に一番最初にヒットした論文で、生物学的に「より強い性」であるはずなのに男性が一般的に短命なのはなぜか、社会におけるジェンダーによる役割が関わっているのではないかということが書かれた論文です。)

次にTwitterでは、(個人のアカウントを特定することになるので画像は載せませんが)stronger sexという用語は単純に男性のことを表現してるというよりも、女性こそがstronger sexであるという反論の際に使われることが多いようです。身体の構造だけ見れば優れているのは男性だけれど、本当に強い(精神的にタフな)のは女性だ、という風に。こうした主張には、「元々身体的および精神的にタフなのは男性である」という論調が下敷きになっていることがうかがえます。

私は現存のジェンダー構造に対して懐疑的な立場なので、twitterの「強い性別は○○だ」の主張に関してかなり物申したい気持ちではあるんですが、とにかくgoogle scholartwitterを見たことにより、stronger sexの一般的な使用方法がある程度掴めたと思います。

stronger sexが使われる場面では、生物学的な特徴(筋力の多さや背丈の高さ)の主張に留まらず、ジェンダーによって期待される社会的役割(マチズモ)が常にセットになっています。このことからstronger sexは日本語で「男らしい男/強い男」と訳すことができます。

歌詞に戻りましょう。ビュビュには『사람들이 짜 놓은 frame에 애써 나를 끼워 넣지 않아 (人々が作ったframeに無理やり自分を合わせたりしない)』というフレーズもあります。

「人々が作ったframe」(=社会の枠組み)には合わせないから自分をstranger(よそ者)と呼ぶと考えると、『毎日が熾烈なstrongerではなくstranger』は『毎日が熾烈な"(社会から期待される)男らしい男"ではなく"よそ者"』と歌っていると推察できます。

そして、このパートの前にはJ-USが『僕がなりたいのはnumber oneではないonly one』と歌っています。number oneもstrongerも社会の上位にいる人々を表すが、自分はそれらではなくてonly oneでありstrangerである。その次のワイアットさんパートでは

僕は誰より輝いてる こんな自分を見ると楽しくて

That’s me this me あげてよ こんな僕のために祝杯を

と歌います。only oneでstrangerな自分が誰よりも輝いていて、祝福に値する存在であると。

 

ところでMY NAMEアルバムには11曲収録されているんですが、girl, lady, 여자 (女性)などの性別を書いた歌詞が11曲中に1行もありません。*2

「性別という枠を置いてみよう、ただ美しい僕たちだけがある」というのがMY NAMEアルバムの大きなテーマなのではないかと思います。

 

生きている僕たちは 夢を見る僕たちは 美しい僕たちは ここにいる

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ビュビュのもうひとつ特別な点は、I'm Beautifulと歌うと共に、その世界には他者が存在していることです。

ビュビュでのI'm Beautifulは見てくれのことを言っていません。自分の、自分たちの生き様について美しいと表現します。

「I’m Beautiful 僕の人生の全ての叫びは 芸術そのものだ」の章

最後の「生きている僕たちは 夢を見る僕たちは 美しい僕たちは ここにいる」と歌うフレーズまで、ビュビュの歌詞は"僕"を曲全体を通した主語にしつつも"君"を排除しません(曲の初めにイーションが「君と僕はこの瞬間にも膨張している大きな宇宙」と歌う通りに)。技術的な面になるかもしれませんが、主語の使い方がとにかく上手だと感じます。押しつけがましくもなく、排他的でもない。それどころか全ての人に向けた歌である。

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「美しい僕たちはここにいる」の振り付けはみんな大好きだと思うんですが、両端にいるメンバー(UとJ-US)は誰もいない空間にも腕を伸ばしています。「美しい僕たち」はオネノプくんだけを指しているのではなく、この歌を聴いている人全てを指しています。

「生きている僕たちは 夢を見る僕たちは 美しい僕たちは ここにいる」の文章自体、美しい文章なんですよね。

(この曲を聴いてるんだから当然)「生きている自分たちがいる」、(どんな類いのものであっても)「夢を見る」。全ての人がこの世に生を受けた以上望むにしろ望まざるにしろ行っていることを述べた後、そこから繋げる言葉が「美しい僕たちはここにいる」。生きることは、夢を見ることは美しい。僕たちは美しい。今を生きる人全てが「美しい僕たち」に内包された瞬間です。

ちなみにここの「生きている僕たちは 夢を見る僕たちは 美しい僕たちは ここにいる」は公式のファンチャントです。(応援法https://www.youtube.com/watch?v=Y1LjL2AWEWg

こんなうれしいファンチャント、この世にあったんだ…。アカペラ部分では「your name ONF, my name Fuse, 僕たちはいつでも美しい(ウリヌン オンジェナ ビュティプル)」と呼びかけることができます。

プレリリース曲として出したMy Name Isはメンバーの自己紹介曲だったんですが、その流れを汲み取るかのようにファンであるFuseも加えて、「僕たちはいつでも美しい」と掛け声にするのはあまりにも最高すぎないか?と思います。ビュビュをKconなどの合同コンで見る機会があったら、ぜびオネノプのファン以外の人も「ウリヌン、オンジェナ、ビュ!ティ!プル!」と叫んでほしいです。

また、このアカペラパートのすぐ後には『僕たちが一緒にいる全てが芸術だ』というフレーズが続きます。ファンチャントで「僕たちはいつでも美しい」と合唱した後に、その僕たち(オネノプくん、そして曲を聴いている私たち)が一緒にいる全てが芸術だと歌っているということです。「私」という人間を、ここまで姿かたちを捉えて包み込む…。

個人的な感覚になりますが(聴いている人を鼓舞するような)応援ソングでも、アイドルが"You're beautiful"と歌う時は、その"you"は曲を聴いている自分を飛び越えた、誰かほかのところへの"you"に聴こえることが多いです。抽象化された"you"よりも、私が推しているアイドルをくるんだ"僕たち"の方が「今ここにいる私」に近い気がする。そしてビュビュは、その私を含めて美しい存在であると歌う曲です。

アイドルとしてステージに立つ自分たちを置き去りにせず、自分を含んだ僕たちが美しいのだと歌うところに正真正銘誰しもに向けた愛を感じました。

ONFが歌った意義

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ONF: MY NAMEと銘打った自身初の正規アルバムで、BEAUTIFUL BEAUTIFULをタイトル曲にしたオネノプくん。ビュビュはどんなことがあっても、どんな決断をしても全ての人生が美しいと歌い上げた曲です。「MY NAMEはONFだ」と表明する上で、これ以上ないタイトル曲でした。

これまでの5年間は過酷な道のりだったと思います。私はロードトゥキングダムの後に彼らを詳しく知ったので、それまでの4年間をリアルタイムで追うことはできませんでしたが、デビューできた時の平均年齢が他のグループより高かったこと*3、デビュー後すぐにサバイバル番組に出たこと。

そのサバイバル番組でメンバーが二人(ヒョジンとラウンさん)選出され、 期間限定のグループで新たにデビューすることになっていたこと、大人の都合でそれが白紙に戻されたこと。オネノプくんの中で大きな役割を担っていたラウンさんが、2019年の夏に脱退したこと。少し調べれば困難な時代を過ごしてきたことを理解できます。

オネノプというグループだけではなく、例えば日本出身のUは高校に進学せず、JYPに入所するために単身韓国に渡り、退所して、日本に戻ってアルバイトをしています。もう一度韓国でのデビューを夢見て入所したのがWMというオネノプくんが所属する事務所でした。

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オネノプくんというグループやオネノプくんのメンバーが辿ってきたように、人生には夢が叶わない時があり、存在を蔑ろにされる時がある。ビュビュはそれを全部ひっくるめてI'm Beautifulと歌います。

オネノプくんはONF: MY NAMEで、これまでの自分たちの道のりを肯定し、未来への明るい希望を描きました。それだけでなく「僕たちは美しい」と歌ってこちらに手を伸ばすことすらしてくれました。

2020年は誰にとっても困難な年だったし、2021年も不安定な年になると思います。そんな状況でこれほど愛に満ちた歌を歌ったオネノプくんは、間違いなく私にとって救いになりました。おそらく多くの人にとってもそうでしょう。

 

最近は共同体よりも個々人を尊重する意識がトレンドになってきました。それに合わせて「人はそれぞれ違う考えを持っているし、それに合わせた生き方がある」という認識が社会全体で浸透しつつあります。同時に、SNSが発達した現代は共感の時代であるとも言われています。

個々人を尊重しつつ共感も持つ、というのは実際かなり難しいことだと思います。自分の持つ枠から飛び出た人に共感するのは難しい。相手と自分を同じように尊重するバランスを取るのも思ったよりずっと難しい。そういう時、自分の枠を取り払おうと努力するのも、相手への過剰な尊重を自らに強要するのも強いストレスになります。

だからオネノプくんが歌ったビュビュは、自分と相手の両方を、お互い程よい距離感を保ったまま、僕たちは美しい存在であると肯定しました。星や宇宙、天の川があるがままで美しいように。そうして、見せつけるようにパッと咲くのだと歌い上げます。

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最後にロードトゥキングダム(以下ロトゥ)の話をしてこの記事を終えたいと思います。ロトゥでは「力強さ」を売りにした舞台が目立ちました。その中でも、舞台上の(ダンサーではないパフォーマーとしての)女性の役割が私の中でずっと引っかかっていました。そもそもほとんどパフォーマーとして登場しなかったというのが一つ、もう一つは彼女たちが「悲劇」にのみ登場し、それ以上の役割を与えられることはなかったという点です。

女性アイドルの方が強いルッキズムに縛られていることや社会的抑圧にさらされていること、それらへの抵抗がガールズクラッシュと呼ばれるパフォーマンスに繋がっていることは理解していますが、クィーンダムではクィアのダンサーが舞台に登場した*4ことを思うと、社会から求められている役割に忠実である(忠実でいなければならない)という意識はボーイズグループの方が強いのだと切なく思いました。ボーイズグループも美しさを肯定してほしい。社会の枠に縛られず高らかに自分が自分であることの喜びを叫んでほしい。押しつけにも近い自分勝手な願いでしたが、ロトゥを見ている間、そんなことをずっと思っていましたし、kpopという大きなジャンルに対しても同じことを思っていました。

オネノプくんのビュビュは、まさにそんな曲であったと言えます。

改めて、一位おめでとう。逆境の末にオネノプくんが咲き誇る未来があってよかったです。

 

youtu.be

*1:ウィキペディアの一種を引用するんだ…と思われる方もいると思いますが、韓国での芸術の捉え方の一例になるかと思い引用しました。また、日本のウィキペディアの芸術を解説したページでも「表現物と鑑賞者が互いに作用しあう」という文章が書かれています。

*2:あるとすればビュビュの英語バージョンのラップに出てくる『Courage I set to be hated my man(親友に嫌われる勇気)』のmy manですが、これはヒップホップ用語で「親友・仲間」という意味なので厳密な性別を指定していません。また、アルバムのブックレットを確認したところ英語の歌詞にファンヒョンさんは関わっておらず、I-bell, Moon Kim, pdlyの三名が書いています。

*3:エイジズムの観点から平均年齢の話を挙げたのではなく、兵役という実質的なタイムリミットにより近くなってからのデビューだったという意味で挙げています。

*4:보깅 댄스란 무엇인가?(AOA '너나 해' 댄스팀이 알려드림)https://youtu.be/Cd1JMEbE0h4