泥のように眠る

アイドルのはなし 引用はご自由に

傷つく準備ができている

やっかいなことになったなと思った。

いつか来る別れを考えながら生きるようになってしまった。

 

VIXXは私が自分という存在にしっかり向き合い、人生を進むようになってから初めて出会った推しだ。人間が好きになったのも、音楽に興味を持ったのも、VIXXの人たちが影響している。さすがに全部が全部VIXXの人々によって形作られたものではなくて、私にも趣味以外の人間関係や人生があって、それらがぴたぴたと吸着されるように私の核を成していったわけだけど、それでもVIXXは私の中心に一等近い存在だった。

日差しのような笑顔が好きだったんだと思う。限りなく素に近いような表情でお互いを小突いているのが好きだった。いろんなことがありながらも6人で緩やかにまとまっている姿が好きだった。

一昨年、再契約の話が辺りを漂いながらもはっきりとした形を取らずにみんながそわそわしていた時、私は再契約してもしなくても彼らが望んだ未来があればいいな、と思った記憶がある。もちろん再契約をして、アイドルとしてファンの前にもう一度立ってほしかったけれど。それが彼らにとってベストな選択じゃないのなら、VIXXが終わることを嘆き悲しむ必要はないと思った。

いつまでもきらびやかな世界の中心にはいられないし、山頂に上ったならいずれは降りなければならない。今から1年後、3年後、おんなじままではいられないのはわかっていた。でも、だからと言ってこんな未来があっていいんだろうか。

ホンビンくんも一度は、いや、VIXXとして生きていたつい最近までは、永遠を信じていたんじゃないかと思う。再契約が話題に上がりつつあった時期に出した曲で、彼は「僕は永遠を信じる」と歌っていたのだ。ラビが作った曲はラビがメンバーのパート振りを考えると言っていたから、その歌詞はホンビンくんを良く知るラビが彼に割り当てたんだろう。

実際、ホンビンくんには「永遠」という愚直で幼い、信念とも言うべきワードがよく似合っていた。ホンビンくんはVIXXの中でずっと、くだらないことでよく笑い、自分の感情をハッキリと言葉にし、メンバーに悪ガキめいたちょっかいをかける人だった。歌手のパクヒョシンにデビューからずっと憧れ続けていた人だった。昔の動画にいるホンビンくんは、自分がVIXXじゃない未来なんてちっとも考えてないように見える。

 

終わりは来るのだ。人は老いるし、環境は変わるし、人生は進む。いくら約束されたところで永遠はない。そのことはとうに知っていたけど、あまりにも急だったし、あまりにもこの先の希望が見えない終わり方だった。ホンビンくんは一昨日復帰の予告をしてコンカを消し、昨日脱退を宣言した。その選択が最善だろうが最善でなかろうが、とにかく私の推しだった人はそう選択したのだ。

3月の出来事は確実に過ちといえるものだった。それ以前にホンビンくんが配信を始めた中でファンとして気になったことも何個かある。でも、それでもそれらがVIXXを辞めるに値するものだったとはどうしても思えない。8年間の歩みがそんなことで途切れてしまうとは思いたくなかった。とはいえ、ホンビンくんの意志を理解する気持ちはある。どれだけ重要な選択でも「そうせざるを得ない」状況があるのだ。それが最善じゃなくても、周りが引き留めても。

でも、お疲れさまの花束を用意して、別れのムービーを作る時間が欲しかった。彼を惜しむ時間が欲しかった。事務所からの事務的な謝罪だけでは、突き放されたような心地になってしまった。その後すぐに始まった配信では、ホンビンくんはもうVIXXのホンビンくんじゃない顔をしていた。

 

この先、頭まで浸かるほど何かにハマって、酸素も生きる糧もそこから供給するような生き方はできないと今回のことで痛感した。自分の執着や情を集中させれば、いざそれが失くなったときにひどく苦しむのだ。もうVIXXだけじゃなくて他のアイドルも見るようになってしばらく経つのに、それでも胸が苦しい。昨日は久々に夢でうなされた。私は傷つく準備をしながらこの先を生きていかなくてはいけない。

VIXXを心底大切に思って、愛を注ぐ人生は楽しかった。